サカイ寫眞室

車のボンネットの上で寛ぐ地域猫4匹の写真
屋外の花棚で寛ぐ地域猫の写真

あの日

もう10年以上前の、冬と春の間のある日のことでした。

お昼御飯にしようと、当時の仕事場のあった古いマンションから外に出ると、上空からウニャーー!!!と猫の威嚇するものすごい声。見れば、近所の庭先にある桜の木のその細い枝先で後ずさりする若いオス猫。そして、枝の根元の方から絵に描いたようなごっついボス猫が激しい声でうなりをあげながら、ピーターパンのフック船長のようにジリジリと迫る姿が。
こりゃいかんとその下に目をやると、ごつごつとした大きな岩が不規則に並び、その高さからこの上に落ちてはさすがに猫といえども無事にはすまないだろうと、塀越しになんとか事態を収めようと務めたのであった。
人間など眼中にないのかなかなか見向きもしないボス猫を、やめなさい!とか、今日の所は!などとさんざん言い聞かせてなんとか退散させることに成功。これでもう安心だよと声をかけたものの、よく折れずにすんでいるものだというのその枝先から、若いオス猫は動けなくなっていました。
がんばって降りておいで、ほら大丈夫、こっちにおいで。声をかけ続けると、そろりそろりと静かに足を動かし枝の根元までなんとかたどり着き、そして幹を駆け下りて逃げて行きました。

翌日の昼の事である。
外に出ると前日と同じようにうなり声が聞こえ、全く同じ光景がデジャブのように繰り広げられていました。
ボスとしては若い芽はどうしても摘んでおきたいのであろうが、猫社会のこととはいえやはり見過ごすわけにもいかず、またしてもコトを収めようとするわたくし。
がしかし、前日で僕を見切ったのか今度は全く微動だにしないボス猫。いかような邪魔が入ろうとも今日こそはあやつをしとめるのだと、殺気がドライヤーのように吹き出している。
うーむ困った。しばし思案の末、急ぎ仕事場に引き返し飛び道具を手にする事にした。
今回ばかりは致し方あるまいと、水鉄砲を手に戻り、彼の視界に入る範囲に何度か水を打ち、ようやくひるんだボス猫は「ちっ、とんだ邪魔がはいっちまったぜ。覚えてろよ!」と捨て台詞を残して去っていったのであった。
若いオス猫がそろりそりと枝先を渡りきり、無事に地上へと降りたのを見届け、それではわたしはこれでと立ち去ろうとした、その時である。
彼はぼくの足元にやってきておもむろに寝そべり、おなかを見せた。

ゴロリゴロリ
にゃー

この日から僕と、外の世界で一生懸命に生きている猫たちとの関係が始まったのでした。

仰向けに寝転ぶ地域猫の写真
仰向けに寝転ぶ地域猫の写真
毛繕いをする地域猫の写真